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2008年2月 8日 (金)

安全な速度とは~制限速度(1)

通勤の途中、道路の速度制限について考えました。場所によっては制限速度が低すぎると感じる場所もありますし、逆に場所と状況によってその速度では危ないと感じることもあります。

いったい適切な制限速度というのはどのくらいなのでしょうか。

そもそも制限速度が何のために設定されているかというと、それはおそらく道路を利用する人の安全を確保するためです。『事故の発生率を下げるため』と言い換えても良いでしょう。

検討の条件があまりにも複雑になりすぎるので、この話では車両を乗用車、場所を高速道路に限りたいと思います。

①高速道路での事故類別

高速道路で多い事故と言えば何でしょうか。警察庁の資料は高速道路上での事故の2/3は追突事故であるということになっていて他の事故類型を大きく上回るようです。実際、高速道路を走っていて見かける事故はほとんどが追突事故です。このため、ここで制限速度を考える際に想定する事故は追突事故に絞ります。

②事故の直接原因

何故追突するのかといえば、前方の危険に対して何らかの理由で自車の減速が遅れ、制動・停止・あるいは回避が間に合わなかったからです。

③事故を避けうる条件

逆に、『運転者が前方にある危険に気づき、その手前で停止する』ことさえ出来れば追突事故は避けることができます。そのためにはまず、危険に気づく、危険が見える、ということが第一の条件です。ニュータイプか超能力者かなら話は別ですが、普通の人は見えてもいないものに反応することは出来ませんから。

つまり、追突事故を防ぐためには、少なくとも『視程が停止距離(=空走距離+制動距離)よりも長い』ことが必要だということになります。

④運転中の視程

高速道路においてこの視程は主として道路の構造によって決まります。高い防音壁に囲まれた首都高でコーナーの内側を走っているときには視程が極めて短くなりますし、谷間に差し掛かろうとする郊外の直線的な高速道路であればかなり長くなるでしょう。

実際のところは…ということで、通勤経路である練馬からの関越道でキロメーターポストを目印にして観察してみました。

結果、鶴ヶ島までの区間で比較的直線に近い箇所でも視程が500mを超えることは稀でした。視程は自分の走る車線位置と路肩の状況によって大きく変わり、左カーブの追い越し車線を走っておよそ300m、右カーブの追い越し車線を走っているときにはせいぜい100mという感じに見えました。視程100mということは、次のキロメーターポストを見ることが出来ないということです。

⑤視程と制限速度

制限速度というのは、ある程度長い距離に渡って適用されるものですから、このカーブは何km/h、このカーブは何km/hと決めるわけにはいきません。ですから例にとった練馬~鶴ヶ島においては、その区間の最低の視程である100mを条件として決められるべきです。100mの視程の中で車を停止させることが出来れば不慮の事態においても追突事故を起こすことはないのです。したがって、この100mという視程の中で確実に車両を停止できる速度を制限速度として考えます。

⑥速度と停止距離

では停止距離が100mとなるような速度とはどのくらいなのでしょうか。ここでは一般の通行者に適用する制限速度について考えているわけですから、もちろん停止距離についても一般の車両と一般のドライバーの組み合わせで考えなければいけません。

『停止距離=空走距離+制動距離』であることは皆さんご存知のとおりです。

⑦反応時間と空走距離

ブレーキメーカーである住友電工のホームページによると、ドライバーが視界に入ってきた危険を認識し判断してブレーキを踏み始めるまでの時間、すなわち反応時間は通常1.5~2.0秒であると書かれています。

この時間は少々長いような気もしますが、遠方の視界に入った物体が危険なのかどうかを判断して制動を行う場合には、自車のすぐ前に何かが飛び出したときのような反射的な動作にはならないのでしょう。自分の経験からも、気付く→目を凝す→考える→判断する→ブレーキを踏む、という動作には、自分が思う以上に時間がかかることがあるのは理解できます。

ただ、ここで反応時間を長く見すぎていると検討の結果に現実感が乏しくなってしまいますから、ここではドライバーの反応時間を1秒としましょう。時速100km/h(28m/s)で走っているときには1秒で28mを走ります。すなわち、視程100mのうち制動に使えるのは残り72mです。

したがって、制限速度は『通常の車両が72mで止まれる速度』以下にしなければならないということになります。それではそのような速度とは一体どれくらいなのでしょうか。

⑧制動距離

一般的な車両(乗用車)の100km/hからの制動距離は約40~45mです。どの車のブレーキが良いとか悪いとか言っても停止距離で言えば大差なく、市販車では100km/hから30mで止まれる車など存在しません。カーボンコンポジットブレーキを持つ997や最新のGT-Rでさえその制動距離は36~7mだそうです。

一方、ABSの普及した現在では、ごく普通のファミリーカーでもかなりの制動距離を持っていて、自動車アセスメントの試験結果によるとV35スカイラインが40m、マークXが45m程度となっています。(この試験結果にはウェット時の値も含まれており、その制動距離は乾燥状態の概ね1割り増しといったところです。)

ちなみに、もう24年前にもなる'84年のモーターファン誌の試験結果によると、当時のクラウンロイヤルサルーンがウェット状態で出した制動距離の記録が50.4mとなっています。

制動距離は速度の2乗に比例しますから、各車が同じ停止距離になる速度を求めることが出来ます。例えば最新のGT-Rがドライで出した記録と、'84クラウンがウェットで出した記録から計算するとその速度の比は、

〔クラウン(ウェット)・50m〕÷〔GT-R(乾燥)・36m〕の平方根で『1.18』ということになります。

つまり、同じ制動距離で止まれる速度だけで考えればおそらく、

'84 クラウン : 100km/h

'08 GT-R&997 : 118km/h

ということになります。イメージから想像するほどの差ではありませんね。

この数十年、エンジン出力の向上により車の加速性能は大幅に向上してきましたが、絶対的な制動力に限って言えば、実はブレーキの性能というのはほとんど進化していないとも言えそうです。だからこそ、ブレーキについては少しの違いに『素晴らしい』と賞賛するのかも知れませんが。

すなわち『俺の車は○○だからどんな速度からでも並の車より早く止まれる』というのは明らかに間違いで、もしも140km/hで走っている車がいたとしたら、それがどんな超高性能車であったとしても、隣を100km/hで走っているファミリーカーよりも早く止まるということは…物理的にあり得ないということになりそうです。

絶対的な制動距離にはコントロール性も耐フェード性も、ましてやフィーリングも無関係ですから。(笑)

エンジン出力を上げれば加速を増すことは出来ます。普通の車両は0.3Gくらいの加速Gしか出せないのですから、タイヤの性能が今のままだとしても、5速まで1G加速できるような車ができるまで、加速性能の向上幅というのはまだまだ大きいでしょう。しかしブレーキ性能を代表する最大減速Gというものは、もうずいぶん昔から1G近傍で止まっているようです。おそらくタイヤ性能の限界で向上幅がとりにくいのでしょう。

 

長くなったので今回はこのへんで。

次はいよいよ、安全を確保するための制限速度を計算することにします。

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コメント

住宅団地内を通る狭い道路に40キロの標識が立っていて、ここはどう考えたって40キロで走るのは危ない。せいぜい30キロか、20キロぐらいが安全だろう、と感じたかと思えば、まっすぐの片道3車線で歩道と完全に隔離された幹線道路に50キロの標識が設置されていたりと、わけがわかりません。私も同じようなことを考えましたが、結局日本の制限速度というのは科学的物理的根拠に基づいて決定されたわけではないのかな?と思います。
一般道は、まぁそれでも良しとしても、問題は高速道路です。新東名・名神なんて、あれだけ立派な高規格道路なのに、相変わらずの100キロなわけで、これでは反則金収入が減るのを懸念した警察が反対した、というような類の批判をされても仕方のないような気がします。建前では「事故率が増える、安全の為」となっていますが。
本当に速度が原因の事故を減らしたいなら、覆面パトカーでこそこそつかまえずに、赤色灯点灯させたパトカーを堂々と走らせて抑止力を発生させれば良いと思います。
確かに速度があがれば事故率は増えるし、事故の際の被害も大きいわけですが、人類はリスクと利便性を天秤にかけながら進歩してきたわけですし。
でも、確かに日本の場合は、仮に制限速度を120キロに引き上げたとしたら、550cc時代の軽自動車、トラックしかり、性能的な未到達車も存在しますし、これらの車との相対速度の差による危険性等、なかなか奥の深い問題のような気がします。
あと私個人的にはトラックの90キロリミッターは失敗だったと思っています。リミッターを義務づけるにしても、せめて現在の制限速度の上限である109キロ程度にしておき、アイサイトの様な衝突防止システムがトラックには一番有効な気がします。理由は、

1,例え90キロであっても総重量20トンを超えるトラックの衝突エネルギーは大きすぎるので、いっそ自動的がレーダー等で自動的にブレーキを掛けてくれて人間のミスをカバーした方が安全です。じっさいに別の記事にもあるように高速道路の事故の多くが追突なわけですから、かなり有効だと思います。
2,元々数千万円する高価な車両なので、システムを取り付けても、大きく車両価格に影響しにくいと思うので、法律で義務づけられたとしても「車両のコストが上がり、中小の運送会社の経営負担が伝々~」のような問題は起きないのかな?と考えます。

それにしても高速のカーブの防音壁、あれどうにかならないもんでしょうかねぇ。

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    10年くらい前に買った本書を再読。紹介されているトレーニング種目は多く、運動競技別のメニューも紹介されている。また、反復可能回数を基準にした重量設定の方法も簡単に紹介されているが、「漸進性の原理」にはほんの一言二言触れているだけで、トレーニングが進んだとき、どのようにウェイトの重量を増やせば良いのかについては殆ど記載がない。唯一、「導入段階のトレーニングプログラム例」の中に「最終セットで15回出来るようになったら2.5kg増す」というような記載があるのみ。確かに重量設定の方法を逆読みすれば目的とする効果が得られる反復回数となるように重量を増やして行くべきということは分からなくもないが一般には分かりにくいだろう。明らかに初心者向けの書籍なのに、その点に関するガイドが不足していることに疑問を感じる。厳密に言うと用い方が違うとしても、8×3法なり5×5法なりのような、分かりやすいウェイト重量調整の判断基準が欲しい。ウェイトを増やして行くこと自体が目的にかなり近いことであって、他のことはその手段なのだから、ウェイトの増やし方には章をひとつ割いても良いくらいだと思うので。 (★★)

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