衝突安全性試験のこと(試験速度条件)
最近では衝突安全性試験の結果が公表されることが多くなりましたよね。各社とも、車種に拠らず「当社の車は安全性が高い」と主張しています。
評価の結果は「☆」の数で表されていて、最近はほとんどが「☆☆☆☆」か「☆☆☆☆☆」でしょうか。
星の数で言うと、星5つの車は、星4つの車よりも安全性が高いと読めるわけですが・・・?
ちょっと考えてみました。
現状、公的機関で行われる衝突安全性試験として代表的な「自動車アセスメント」では、時速55km/hからの衝突で乗員にかかる加速度の大きさを主な基準としてで評価が行われています。
車両を所定速度まで加速した上でコンクリートバリア、或いはアルミハニカムコアへ衝突させた時のダミーにかかる加速度を測り、その加速度が小さければ小さいほど、乗員への衝撃が小さい=負傷の可能性が小さい、したがってその車両の安全性が高い、と判断するようです。
もちろん、他にも乗員の脱出性ですとか、ペダルの室内への突き出しですとか、色々な測定項目が書かれていますが、大まかに言うと乗員加速度が最大の評価基準になっています。
A車よりもB車の方が乗員にかかる加速度が小さければ、「B車はA車よりも衝突安全性が高い」ということになるのです。
しかし、ここで疑問です。55kmの衝突安全性試験で良い成績を修めた車を、もっと高い速度、例えば60kmで衝突させたときにはどうなるでしょうか。
現代の車は全て、衝突安全性を確保するため、クラッシャブルゾーンを効率的に潰しながら衝突のエネルギーを吸収するという方法を採っています。
乗員の生存空間であるキャビンスペースの変形を抑えながら、その前後のスペースをできるだけ完全に変形させて衝突のエネルギーを吸収し、乗員にかかる加速度を小さくするわけです。
ここで、同じ力で少ししか変形しない硬いスポンジと、大きく変形する柔らかいスポンジの上にタマゴを落とした時のことを想像してください。言うまでもなく、ここで言うスポンジは車のボディー、タマゴは乗員です。
タマゴを落とす高さを増していったとき、先にタマゴが割れるのは硬いスポンジの方でしょうか、柔らかいスポンジの方でしょうか?
一見、硬いスポンジに落としたときの方が先にタマゴが割れそうですが・・・。
確かに、スポンジの厚さが無限であれば、それで正しいと思います。ところが、現実にはスポンジの厚さは有限で、その下には固い床があるのです。
では、もしも、床の上に置かれた厚さが5cmのスポンジの上にタマゴを落とすとき、硬いスポンジと柔らかいスポンジとで、どちらのタマゴが割れずに済むでしょうか。
例えば5cmのスポンジで衝撃を吸収できる範囲の高さからタマゴを落としたときには、柔らかいスポンジのほうがタマゴに与える衝撃は少ないでしょうけれど、それを越えた場合には柔らかいスポンジではタマゴが床に接触して、衝撃は急に強くなるわけです。
一方、硬いスポンジの場合、卵に与える衝撃は初めから比較的大きめでも、柔らかいスポンジと比べて、更に高いところから落とすまで、卵が床に接触することはありません。したがって、急激な衝撃の増加もありません。
車に戻って考えてみると、いかがでしょうか。与えられた試験条件に於いて、最もクラッシャブルゾーンを有効に潰し、乗員にかかる加速度を小さくした車の安全性が高いと評価されます。(ライドダウン効果)
非常に分かりやすい評価方法ですが、「与えられた試験条件に於いて、最もクラッシャブルゾーンを完全に潰した」というところが気になりませんか?
では、先ほどのタマゴの話と同じように、「与えられた試験条件」以上の衝撃を受けたときはどうなるのでしょうか。
はい、「急に衝撃が大きくなる」可能性があるでしょう。
つまり、55kmの試験で衝撃が小さかった車が65kmの試験でも衝撃が小さいかどうかというと全く別の話になりそうです。
逆に、55kmの試験では衝撃が少々大きかった車でも、クラッシャブルゾーンに余裕があれば、更に上の65kmの衝突でも同レベルの衝撃に抑えられる可能性があるのではないでしょうか。
現状は55km試験が一般的なので各社その条件での試験結果しか公表していませんが、もしも更に高い速度でのデータが公表されれば、車ごとの順位は全く変わったものになる可能性があります。
もしも一部に「55km/h衝突試験スペシャル」とでも言うべき車両が存在したとしたら、現行の55km/h衝突試験では最高の安全性能をたたき出すものの、それを微かに超える速度では急に危険性が高まるかもしれません。
逆に、更に高い速度までの安全性を確保しようとした車両では、その車両の衝突安全性にとって通過点でしかない55km/hという速度での衝突試験の評価が、必ずしも最高等級になることはないかもしれません。
以上、私が考えたことが正しいかどうか分かりませんが、本質的にはそれほど外れた話でもないと思います。
なかなか評価データの判断というのは難しいものですね。
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